先ほどまでうっすら見えていたロタ島の島影は消え去り、目の前に広がるのは一面の暗雲とその下の数千の細い糸を引いたような雨筋、わずか数百メートル先で足元から続く白波の立つ海面は消え、豪雨、暴風が私を待ち構えていることを知らせてくれる。視界が全く効かない積乱雲の真下では3cm足らずのGPSの基線とそれに乗っかるボートを示す矢印のみ。さぁ、突っ込むぞ!と気合を入れた10分後には進路にうっすら明るさが戻り、雨も止み、晴れた空は見えないものの高い雲が私を迎えてくれた。ここは太平洋、サイパンから50マイル、ヤギ島とロタ島の中間点だ。今回私が単独でロターサイパン間をボートで往復しようと思ったきっかけは、先月乗った小型機がたまたま乗客2名で、日本人パイロットの計らいでコパイロット席に乗せてもらった時、サイパンからテニアン上空を越えてすぐにロタ島が進路に見えたことに由来する。ボートで海上を走っている場合、相当高い山や島が見えないと水平目線で13km先までしか見渡せず、島から島への距離感や島の見え方が想像できない。しかし、高度150mから見渡したその景色はまるで立体地図のように鮮明に私の脳裏に刻まれ、海面を走るイメージがしっかり構築された。更にGPSに出発点と到着点の座標を入力すればその間に基線が引かれ、方位、距離、現在の船速度を自動計算して目的地までの所要時間、到着時刻まで表示してくれる。もっとも海上には道がないので方位が決まっていれば航海中の頭の体操に脳みそで計算してほぼ誤差の無い到着時刻を割り出せるようにもなった。7月17日06:30amロタ西港を出港、海上はほぼべた凪、青空の下、ところどころに雨雲が点在、東の風3mph。サイパンスマイリーコーブ到着は11:00am、平均時速18.5マイル、4時間30分の航海であった。途中、イルカの群れに囲まれたり、絶対に釣れるのにな~といったナブラがあったり、サイパンフィッシングダービーからロタ、グアムへ戻るボート数隻とすれちがったり、なんとも穏やかなクルージング日和だった。目的はわが愛艇SEA EAGLE-1のモーターのずっと気になっていた原因不明のノイズの修理とロワーユニットのギヤ交換のためで、海が穏やかになる4月から7月中に全てを済ませたかったのである。生憎ボートショップにはノイズの原因だったパーツが無く、修理に7日間は必要になったため、一旦飛行機でロタに戻り、7月31日に飛行機でサイパンに渡って引き取り、帰路の航海が始まったのである。7月31日の海上は大荒れ、最悪の南西の風18mph。当日テニアン海峡を渡ったキャプテンにはとんでもない海だったと聞かされ、呑み屋のマスターからもやばいんじゃないの?と脅されたが、8月1日は一旦海況は落ち着く予想。06:45amにサイパンシュガードックを出港、テニアン海峡はさすがに荒れたが、テニアングロットまで55分、ヤギ島通過まで2時間。順調な航海だった。風向きが南西で向かい風、ところどころ雨も降るので幌を張って走ったため船足は遅く、13マイルが限界。ようやくロタ島が見え始めたころに冒頭の雨雲にぶつかったのである。7時間みていた予想はロタ島に近づいてから海が凪いできたため船足が上がり、6時間30分後、13:15pmにロタ西港に着岸した。往復とも文句も言わず淡々と回ってくれるモーター、メインテナンスのあとはより快適な燃焼音を響かせて軽やかにボートを走らせてくれる。YAMAHA F-150、素晴らしい船外機である。