2018 減圧障害ファーストエイドと最新治療情報

減圧障害ファーストエイドと最新治療情報

ROTA SCUBA CNETER RUBIN Hiroshi Yamamoto

 

去る2018年4月7日、マリンダイビングフェアに併せてJCUE日本安全潜水教育協会による「減圧障害のファーストエイドと最新治療」と題するセミナーが開催されました。会場には日本のダイビングシーンを黎明期から引率してきた協会の役員や指導員をはじめ、世界的なダイビングビジネスが集結している沖縄からも著名な講師が集合して、ほぼ満席となった会場のインストラクター、ガイド、一般ダイバーと一体になって熱い講座となりました。

講座は村田幸雄先生、野澤徹先生、合志清隆先生によるリレー方式で行われ、日本のダイビング事故の現状、ダイビング事故一次対応における酸素供給の有効性、減圧障害の対処法についてお話して頂きました。この講座を参考にCNMI及びROTA島におけるダイビング事故の現状、対策を検討していきたいと思います。現在では減圧症に関しての情報がダイビング専門誌、雑誌、ウエッブ発信によりさまざまな角度から解説されており、複雑な情報から最適とされる予防法、対処法を選び出すことが可能となっていますが、2018年度の情報として現場の方々にお読みいただければ幸いと存じ上げます。もちろん、減圧症予防策を最大限活用している中でやむを得ず起こってしまった症例、対処法について検討を重ねたいと思っております。

  • 沖縄県におけるダイビング事故の傾向と救助の現状

日本では約50万人といわれるスクーバダイビング人口のほとんどのダイバーが潜ったことがある地域としては1位沖縄県、2位静岡県であることと同様にダイビング事故の発生数は1位沖縄県、2位静岡県となっています。事故に遭う年齢は40歳以上が90%、また、スノーケリング事故も47歳~82歳の年齢層で発生しています。これに比例して減圧障害も発生していますが、沖縄県全体で酸素加圧式再圧室(チャンバー)は11基しかなく、事故現場での酸素供給を可能にする酸素タンクを設備しているダイビングサービス及びダイビングボートは全体の3割程度とのことです。さらに事故者の搬送方法も多岐に渡り、飛行機や救急ヘリコプターでの搬送は減圧症再発の可能性もあるということです。今後の事故対応に関しましては初期対応として酸素供給がかなり有効と考えられるため、現場にて酸素タンクをはじめとした供給システムの整備が促進されることに期待します。

  • 水難事故における酸素利用の有効性と法的側面

スクーバダイビング関係者らの間では20世紀後半から医療用酸素の使用は医療行為に当たるため医師法違反に問われるのではないかとの懸念がありましたが、2016年7月には厚生労働省が講習を受けたうえで緊急時に限り医師以外の人の酸素の使用を認める見解を発表しました。これによりウォータースポーツ、水泳、ダイビングなどの現場での溺れに対しての酸素使用は救急救命率を向上させると思います。ただし、除草剤中毒、慢性閉塞性肺疾患、過換気症候群への使用は禁忌となっています。また、近年フリーダイビングの流行に伴いカーボンフィンなど高性能の器材の普及によりフリーダイビングでのブラックアウトなどの事故も懸念されていますが、現場でのファーストエイドにも酸素使用は有効と考えられます。

  • 減圧障害発症時の対処法

減圧症Ⅰ型、Ⅱ型ともに大気圧環境に戻った1時間以内の発症率は42%となっていますが、減圧症には診断基準がないため、自覚症状、他覚症状によりおかしいなと思ったらすぐに酸素吸入を始めることでⅠ型の場合は95%症状が改善されるというデータがあるそうです。また、実際の診療の現場では2~3日経った後に関節に痛みがある場合、減圧症よりも椎間板ヘルニアや筋肉痛がほとんどを占めているとのことです。減圧症になった場合、至急に再圧チャンバーに搬送しても症状の改善はあまり期待できず、再圧チャンバーによる治療は減圧症の再発を防止する為に行うと考えて良いと思います。

スクーバダイビングの現場で減圧症の疑いがあった場合は、あわてずにすぐに酸素吸入を行い、医療機関に搬送中も供給が出来れば行うことが最優先と考えられます。Ⅱ型の場合は後遺症が残る場合が多く、こちらは改善にも時間がかかるため諦めが肝心だそうです。

  • 結論としましては、減圧症予防、初期症状に対しては酸素供給が最も推奨される処置であること、

そのためにはボートダイビングの場合には自社、乗り合いボートのどこに救急酸素キットが保管されているか、その使用方法について定期的にスタッフ間で認識、確認しておくことが大切だと思います。サイパン、テニアンの酸素供給方法につきましては現地指導員、NMDOAの方針などもあると思いますのでこちらでは省かせて頂きますが、ROTAの場合はRUBINのボートに純酸素2,000psi × 1.5リットル(約20分)、店舗に2,000psi × 3.0リットル(約40分)の救急キットを常備してあります。こちらの救急キットは必要があればCNMIにおける他社、グアム、サイパンからのダイビングボート、ダイバーの利用も可能となっております。

  • 酸素供給時の流量について

救急時のファーストエイド、または浮上後の減圧症発症予防のための酸素供給は有効とご理解いただけると思いますが、どのくらいの流量で対象者に酸素を供給するかは今のところ諸説あります。その幅は2リットル/毎分~15リットル/毎分と広いため、どれくらいの量を供給するか迷います。私は「予備患者、患者が気持ち良いとされる供給量が最適ではないか?」と考えます。懸念されるのはまず、多量の酸素を吸引した時の陽圧感(不快感)で、医療従事者のご意見としましては気分が悪くなること、場合によっては体内に二次的な悪影響が起こるかもしれないこと(どんな悪影響かはわかりませんが。)、また、減圧症は医師の判断基準がなく、自己診断でそう自認されてしまう精神的な要素も多く含まれていることを考えると、救急現場でのファーストエイド、医師による治療の後に患者から苦情が出た場合の記録上、多量または少量の酸素供給が後遺症を招いたなどといわれないためです。

もし自分がその立場になった場合、やはり少ない流量から始めて気分が楽になったときの流量でなるべく長く吸引したいと思いますし、患者を医療機関に引き継いだ後も本人の印象はよくなると思います。現在の酸素供給キットのファーストステージはフリーフロー時の流量は1~10リットルの調整が出来ますし、用途によってはデマンドバルブセカンドステージも使用可能となっています。

  • ダイビングを始めて47年、約15,000diveの内9,000dive以上は15年前に移住したROTAにて潜っていますが、幸いなことに私もゲストも減圧症になった人はいないため、想像の範囲内でしか準備が出来ませんが、今まで以上に予防を第一としてダイビング計画を立て、万一の事態に対処できるファーストエイドの技術、医療機関との連携を強めて行きたいと思います。
  • 今回の「減圧障害ファーストエイドと最新治療」講座に参加するにあたって、MVA SAIPAN、MVA ROTA、MVA JAPAN、NMDOAからも多大なご協力をいただきました。また、講座よりこのレポート作成中に疑問が湧き上がり、各省庁、村田先生、合志先生からも追加の情報のご提供を頂きましたことに心よりお礼申しあげます。また、肝心の救急酸素キットの整備にもてこずってレポート完成までに7ヶ月もかかってしまいましたことにつきましてお詫び申し上げます。

ありがとうございました。

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